みなし残業には悪い印象が多くなっており、デメリットばかりと思われがちですが、メリットもあります。みなし残業で怖いのは、間違った導入方法や会社の都合のいい解釈です。みなし残業といわれたら、正しく運用しているかどうかをチェックしてみましょう。
- 月給23万円(固定残業手当30時間分3万円を含む)
- 月給20万円+時間外手当
みなし残業とは
みなし残業制度とは、一定時間分の残業代があらかじめ含まれている給料制度をさします。残業したと「みなし」、その残業時間分の手当を残業の有無にかかわらず毎月上乗せして支払う制度です。もちろん、実施するには厳しいルールに則って運用しなければいけません。
法律では「みなし残業」とはいわない
みなし残業と一般的に呼ばれていますが、実際に法律で定められているわけではありません。これにあたるものとして厚生労働省が告知しているのが「固定残業代制」です。
残業代を固定することは違法ではありませんが、違法な運用が相次いだことから厚生労働省による通達などで基本ルールが定められました。「みなし残業」の呼び名は世間でいわれる通称であり、これ以外にも固定残業代の呼び方はあります。
固定残業代(名称によらず、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金)制を採用する場合は、固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うことなどを明示することが必要です。
「みなし労働時間制」というルールも
「みなし残業」に似た言葉に「みなし労働時間制」というものもあります。これは外勤や裁量労働で働く人などに使われる制度で、名前だけでなく内容も少し似ています。実際の労働時間に関係なく一定時間を働いたと「みなす」制度です。適切な労働時間を算定することが困難で、成果・内容で評価される仕事などで使われます。
「みなし労働時間制」
特定の事情により労働時間の算定が困難又は通常と同じ算定方法が適切でない場合、労使協定等により定めた時間を労働したものとみなす以下の(ア)~(ウ)の制度をいう。
平成28年就労条件総合調査 結果の概況:用語の説明
(ア)「事業場外みなし労働時間制」外勤の営業社員など となっているよ。
(イ)「専門業務型裁量労働制」研究開発など
(ウ)「企画業務型裁量労働制」企画、立案、調査及び分析の業務を行うホワイトカラー労働者
みなし残業の基本ルール
みなし残業を会社の制度として導入するには、厳しいルールがあり、どんな会社でもやっていいわけではありません。みなし残業を取り入れるためには、従業員の同意や就業規則への記載などが必要です。
みなし残業制度導入には従業員の同意も必要
基本的な導入ルールとして、みなし残業は会社が勝手に行ってはいけないことになっています。会社は従業員に告知して、労使間で合意しなければみなし残業を取り入れられません。また、告知や同意は口頭ではなく書面で行う必要があり、就業規則に明記したり、雇用契約書などを交わしたりといった手順が必要です。
みなし残業代と基本給は明確に分けなければいけない
みなし残業の制度を導入するならば、求人募集の際に守らなければいけない給料提示方法のルールもあります。みなし残業の表示でありがちな、「基本給(みなし残業代含む)」という簡単な表示では認められません。給料に含まれている残業時間数と残業代を明記しておく必要があります。
- 〇「月給○○万円(固定残業手当○○時間分○○円を含む」
- ✖「月給○○万円(残業代を含む)」
みなし残業時間にも上限がある
みなし残業は一定時間の残業代を固定できるだけであり、その時間数は、一般的な残業と同じように36協定の範囲は超えて設定することはできません。36協定は、労使間の合意によって残業時間を決めるものであり、労働基準法を元に時間の上限が定められています。
参考 36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針厚生労働省みなし残業制でも残業代を請求できることがある
みなし残業制の会社でも、就業規則で決められた残業時間を超えたら残業代が発生します。会社は、みなし残業の時間と決めた以上の残業をした従業員に対して、その分の残業代を支払わなければいけません。そのためにも上記のようにみなし残業の時間数を明記する必要があるのです。
また、別途支払うべき残業代には、深夜割増などの割増手当も適宜つけることになります。
みなし残業の違法性とデメリット
みなし残業の運用にはいろいろなルールがあり、会社や従業員が正しく理解していないことも多いものです。そのため、会社も従業員も知らないうちに法に従わずにみなし残業制を運用している可能性があります。
また、企業があえて残業代をごまかす目的で使うこともあり、注意が必要です。自分が損をしないように、みなし残業の違法性やデメリットについて知り、自社の運用方法を見直しましょう。
みなし残業代制度を明記していない会社も
みなし残業だからと残業代を別途支払わないのに、それを就業規則などに明記していない会社もあります。みなし残業にするなら、書面で制度の内容を告知、従業員の同意を得なければいけません。口だけの約束ではみなし残業にはならず、会社がそれをわかってやっている場合には、ただの残業代のごまかし工作、そして労働基準法違反です。
みなし残業制度で過剰なサービス残業をさせる会社も
みなし残業制は、世間でも噂されていますが、過剰なサービス残業を生む温床となっています。悪質なケースでは、みなし残業といって不当に過剰なサービス残業をさせる会社などもあるようです。これが長く続いているのは、ブラック企業の可能性があります。
みなし残業時間が月45時間を越えている会社も
みなし残業でも、残業時間の上限は決められています。しかし、それをオーバーして残業をさせている会社もあるようです。特に月45時間を超える残業は、労働基準法違反になります。そもそも残業時間で違反している会社は、みなし残業制であろうとなかろうとブラック企業の疑いが高いです。
みなし残業代が最低賃金を下回る会社も
会社は基本的に、地域別に定められている最低賃金以上の給料を支払わなければいけません。それは、当然みなし残業代にも当てはまるルールです。例えば、「固定残業手当30,000円(月40時間分)を含む」(東京都の会社)であれば、時給換算750円の残業代ということになり、東京の最低賃金950円を下回ってしまい、違法になります。このように、地域別に金額は違い、いちいち時給換算しなければ分からないため見逃してしまうこともあり、注意が必要です。
みなし残業には、デメリットばかりとは限りません。正しく活用しているなら、違法ではありませんし、うまく使えば会社と従業員双方によい面もありそうです。みなし残業のメリットも理解して、怖がり過ぎずフラットな気持ちで冷静に判断できるようにしておきましょう。 みなし残業制では、給料計算のときに残業代や残業時間の集計が楽です。一定時間の範囲なら毎月固定の残業代になるため、いちいち社員ごとに残業代を計算しなくて済みます。 みなし残業制には、従業員にもメリットがあります。みなし残業制の場合には、毎月の給料に一定の残業代が含まれており、その残業代は減ることがありません。そのため、残業のないシーズンに給料が減ることもなく、安定収入が可能です。 中には給料を高くみせるためにみなし残業を悪用する会社もありますが、他社や業界内の標準給料と比べて判断し、問題なければみなし残業制も悪くないかもしれません。 みなし残業にも上のようなメリットはあるけど、「月給20万円+時間外手当」の方を選んだ方がお得なことが多いんだよ!
みなし残業制にもよいことはありますが、やはり悪い点が目立ち、不安は大きいものです。自分の会社の制度に不安やおかしな点をみつけたら、早めに対策を講じましょう。声を上げるのは勇気のいることですが、その後の会社の対応次第でブラック企業か否かを見極められそうです。 みなし残業制を導入しているなら、就業規則、または入社時に交わす契約書には、必ずその条件が記載してあるはずです。まずは、書かれている労働条件の見直しをしてみましょう。雇用契約書なら、自分にも控えがありますが、就業規則は会社にみせてもらうように依頼することが必要なこともあります。 正しい経営で法に則った労働条件を定めている会社では、みせることを嫌がることはありません。反対に、従業員に就業規則をみせたがらない会社は内容以前の問題として、ブラック企業の可能性があります。何か追及されたら困る内容が書かれていたり、そもそも就業規則を作っていなかったりするかもしれません。 みなし残業制でも、就業規則や雇用契約書に書かれた時間以上の残業をしたら、その分の残業代は請求できます。就業規則を確認したら、次は過去のタイムカードや給料明細をチェックして、未払い残業代を計算しましょう。未払い分は、在籍したままでも請求できますが、一般には請求後に会社に居づらくなるため退職後に請求をする人が多いようです。
主にブラック企業の場合ですが、残業代請求をしても会社が取り合ってくれないことも多いようです。会社が応じない、こじれそうな場合には早めに専門家に相談した方がよいでしょう。労働関係の相談相手としては、公的機関や民間までさまざまな専門分野の外部団体があります。残業代だけでなく、そもそも就業規則は正しいか、ブラック企業なのかといった相談も可能です。
みなし残業制は、基本的には違法性はなく、メリットもあります。とはいえ、ブラック企業の隠れ蓑として使われるケースが多く見られるのも事実なので、会社がみなし残業制を使っている場合には働き方や会社の就業規則などを見直してみましょう。 まずは、働く私たちがルールを知って、みなし残業の制度が正しく使われているか判断することが大切です。正しく使われているなら労働者側にもお得な面もあり、一概に怖がることはありません。みなし残業の効果とメリット
みなし残業制なら残業代計算が楽
残業の少ない月も安定して残業代がもらえる
みなし残業制に不安を感じたら
規則や労働条件の見直しを
未払い残業代は請求を
外部組織に相談を
みなし残業制で残業代をごまかされないように