「拝読」は「読む」の謙譲表現
先生の御著書を拝読しました
著者に面と向かってこのように言えるシーンはなかなかないかもしれません。自分の好きな作家の前でこんなことが言えたら幸せですよね。
「拝読(はいどく)」は「読む」の謙譲表現。読む行為をする自分を下にして相手を立てています。この場合の「相手」というのが少々難しいです。
著者を目の前にしている場合には「書き手」も話している「相手」も同じです。しかし、上司や取引先の人に借りた、他人が書いた本に対して「拝読」は使えるのでしょうか。
「拝読」の敬意の方向
「拝読」を使った場合、敬意の方向は本や資料を書いた人に向かいます。
そのため、上司から借りた本に対して「拝読しました。面白かったです」というと、本を貸した上司には敬意を払っていないことに。
作者にも敬意を払うべきではあるのでしょうが、目の前にいない作者より目の前の上司に第一に敬意を払うべきです。
この場合は、「読ませていただきました」でOK。この表現は作者を前にしても使うことができます。
「拝読」の使い方・例文
・原稿を拝読しました ・計画書を拝読させていただきました ・寄せられたご意見はすべて拝読しております
本や原稿について「拝読」を使うのは、出版関係の人かファンレターを書く人ぐらいかも。
とはいえ、ビジネスシーンでもメールや書類、寄せられた意見やアンケートに対して「拝読」を使えないわけではありません。硬い表現なので口語よりは文章の中で使われることが多いです。
しかし、「読ませていただきました」や「拝見」の方が使い勝手のいい表現です。
「拝読いたします」は間違い?
「拝読」だけで謙譲の意味があるため、「拝読いたします」は二重敬語です。
二重敬語を単純に間違いとするのであれば、「拝読いたします」は間違いということになります。
しかし、「拝読いたします」は慣習的によく使われている表現なので、一概に間違いだから使うなとも言いきれません。これは他の謙譲表現にも見られる傾向です。
気になるようであれば自分が使わないように気をつけましょう。
「拝読」の類語
「拝読」の類語表現について見ていきます。気になる「拝見」との違いも。
・拝誦(はいしょう) ・拝見(はいけん)
「拝誦」はあまり一般的な表現ではありませんが、「拝読」とほぼ同じ意味で使うことができます。しいて違いを挙げれば、「拝誦」は声に出して読むといったニュアンスを含みます。
「拝見」との違いは?
「拝読」は「読む」の謙譲表現。一方、「拝見」は「見る」の謙譲表現。目を通すという意味ではどちらも同じです。両者に違いはあるのでしょうか。
結論から言えば、「拝読」は「拝見」に置き換えることができます。しかし、逆はダメ。
「拝見」は「拝読」と並べると「よく見る」というニュアンスがあり、「拝見」の方が丁寧に読むように聞こえます。「拝見」の方が言葉として一般的であり、意味の範囲も広いです。
本の作者に直撃するようなシーン以外ではあえて「拝読」を使う必要は感じられません。
「拝見する」の意味とは?尊敬?謙譲?使い方から類語、英語まで
相手が「読む」場合は?
「拝読」は自分が読む行為に使う表現。相手には使うことができません。相手に「読んでください」と言いたい場合は以下の表現を使いましょう。
・ご覧(らん)ください ・ご高覧(こうらん)ください ・ご一読(いちどく)ください
これらは相手を立てて表現できる尊敬語。資料やデータ、メール等に目を通してほしい際はこれらの表現を使うことができます。
「ご高覧ください」は他二つに比べて少々堅い表現なので、日常的な会話では「ご覧ください」か「ご一読ください」を使いましょう。
「ご高覧ください」の詳しい使い方については以下でご確認ください。
「ご高覧(御高覧)」とは?意味や使い方・類語・英語表現を解説
「拝読」を英語で
「拝読」は英語ではどのように表現できるのでしょうか。
I read your comment ⇒ご意見拝読しました
英語では謙譲表現に当たるものがないため「read」でOK。
もう少しうやうやしくしたい場合は、「…and it was very informative(とても参考になりました)」。このように続けるといいでしょう。前後の文章で「拝読」のニュアンスを出すことができます。
あえて使う場合は
「拝読」は「読ませていただきました」や「拝見」に置き換えることのできる表現。あえて「拝読」を使う必要性は感じませんが、尊敬する作者に会ったときには「拝読」で思いを伝えましょう。