【短編小説】2回目のスタートライン☆第6話

2回目のスタートライン_6話

マサトの場合①

密かな想い

…どうして、タクミまで来ることになってんだ? 俺はカスミと二人きりで話をしたかっただけなのに。

タクミがぶっ倒れたって知ったのは、徹夜明けでやっと会社の仮眠室に入った時だった。

カスミは俺たちグループのメンバーに片っ端から連絡を入れていたらしい。

グループLINEで「タクミが倒れた。実家の連絡先、だれかおしえて!」

そして、深夜に俺あての不在着信が3件。

出られるわけがない。わが社恒例のサービス残業中だったんだ。

きっと、他のヤツが対応したんだろう。おせっかいのチエあたりか…いや、しっかり者のアキだろうな。

チエはアフターファイブを合コンとデートに費やしている。連絡が付くはずがない。

玉の輿狙いだそうだが、まったくよくやるよ。

そういえば高校時代から「私は働きたくない! 玉の輿に乗る!」と宣言していた。あそこまであからさまだと清々しい。

その頃から正反対だったのがアキだ。

勉強ができて教師からの受けもよくて、だからと言って真面目すぎることもなく、ざっくばらんなところもあって。

男勝りなところがちょっと面倒なんだよな、すぐに俺に突っかかってくる。いや、突っかかっているのは俺の方か。

みんなから愛されて、そこそこ良い大学を卒業して希望の企業、花形の部署に入ったアキを、俺はどこかでうらやんでいた

「純粋培養」「挫折知らずの優等生」…いろいろ揶揄して難癖つけて。

アイツも気が強いから、言い合いになって論破したりされたり。まあ、頭の回転が速いアキと言い合うのは楽しかったけど。

…なんだろう、小学生のガキみたいだな。

そんな挫折知らずだと思っていたが、アキは仕事とプライベートの両立で悩み、苦しんでいた。そして、乗り越えたらしい。

そして、アキは…

 

いや、アキはいいんだ。問題は俺の方だろう。

アイツはきちんと前進しているのに、俺はどうだ?

仲間の前では有能ぶって、多忙を勲章のようにひけらかして。プロジェクトリーダー? 初めての大役? でも実態は、頭の固い上司とできない部下に挟まれ、サービス残業の毎日だった。

こんなはずではなかった。

それを相談したくてカスミに連絡していたんだけど、今回の騒動の余波を受けてタクミまで参加とは…。

俺は仲間の前では強気で優秀な人間でいたいんだ。特にアキやタクミには弱みを見せたくない。

とはいえ、贅沢は言えないだろう。

カスミだって看護師で忙しい毎日を送っているのに、時間を作ってくれるんだ。

なんせグループ唯一の既婚者なんだから、俺と二人きりより3人の方がいいと思ったのかも知れない。

俺は覚悟を決めて(諦めて?)待ち合わせに向かうことにした。

コンプレックスと恋愛感情

「おつかれ~。なかなか時間作れなくて、ごめんねぇ」

待ち合わせはグループで集まったことのある居酒屋。静かすぎないから相談事にちょうどいい。

「タクミはこれから? アイツがいると話しにくいな、なんとなく」

「いいじゃない、タクミも心配してたよ。」

「ヒトの心配している場合か?」

「確かにね」

クスクスと笑うカスミの前に腰を下ろす。

4人掛けのテーブル席にはすでに、注文したらしいほっけの開きと温野菜サラダ、ビール。健康に気を付けているのか、いないのか、分からないヤツだ。

「で、今日は恋愛相談? 今ならアキ、フリーだよ

「…いきなりか」

「タクミが来る前にチャチャっと片付けようかな、と。その方がいいんでしょ?」

「いや、そうだけど、そうじゃないんだ…」

たしかに、ずっと先送りにしてきたことだった。

アキに対する気持ちは、恋愛感情かも知れないけど、実は一歩踏み込めないでいる。

その理由の一つはライバル心だ。

大卒で順調にキャリアを積むアキと高卒の俺。

スペシャリストを目指してひたすら実践経験を積んできたけど、どうも最近上手くいかない。

そんな状態だからか、アキの前にいると自分のコンプレックスが刺激され、イライラすることがある。

つい何でも張り合おうとしてしまう。仕事でこんな状態の俺では、まだダメだ。

「アキのことをどうのこうの考える前に、まずは自分のことを何とかしようと思ってさ」

「ほう、アキのことは素直に認めるんだね」

ちょっとふざけた口調で言い募るカスミに肩をすくめて見せ、今回の本題に入ることにした。

叩き上げのプライドと空回りするリアル

高校卒業後、俺はエンジニア志望で中堅どころのIT企業へ入社した。経済的にも性格的にも、早く社会に出て働いた方が良いと判断したからだ。

実は、学生時代からプログラミングを独学でやっていて、自信もあった。

たたき上げの職人に、スペシャリストになってやろうと意気揚々、働きだした。

最初のうちは何もかもが珍しく、先輩たちは素晴らしく見えた。

プログラミング知識やシステム開発の知識の基礎をきちんと学び、最高のスタートを切ることができたと思えたんだ。

だが、数年で状況は変わってきた。

多忙すぎて、先のキャリアパスを思い描く暇もない日々、さらに突発トラブルも多く、その対応にまで追われる。

少数精鋭と言ってはいるが、人が足りない現場を分かっていない上層部。

精鋭と言いながらも、給料は上がらず、正当に評価されているかも分からない。

これがITエンジニアの宿命だよ、と言われても納得できなかった。

そんな時、アキに転職を勧めるカスミのアイデアが俺の脳裏にも引っかかった。うん、転職という道もあるんだな。

「ITエンジニアって、転職するヤツも多いだろ? 俺もちょっと転職考えてみてもいいかなって思ってさ」

「ふぅん。でも、ちょっと前にリーダー任されたとか言って、張り切ってたよね?」

ふん、嫌なことを覚えているな

「まあ、いろいろあってさ。…大丈夫、今のプロジェクトを投げ出すことはしないから」

責任者をしている時に退職するのは社会人としてNGだけど…アンタまで倒れないでよね。こっちは忙しくて困るわ」

「タクミか。結局、俺も同じなんだろうな、会社にいいように使われて…何やってんだか」

するとカスミはちょっと首をかしげて言い出した。

「マサトは、今みたいにチームでたくさんの人と協力する働き方が合ってないんじゃない?」

「ヒトをコミュ障みたいに…」

「いや、そうじゃないけどさ、もっと自由な働き方ができる会社を探したら?」

「やっぱり転職か。」

「スタートアップのベンチャーとかさ、若い力を求めている会社なんて多いんでしょ? そういう会社なら自分をすり減らすことなく、やりたいことを実現できそう」

俺はスマホを取り出して、簡単に検索をかけてみた。確かにエンジニアの求人は多い。

「転職サイトだの、エージェントだの、いろいろあるんだな」

「そうだ、エンジニア向け転職サイトなんかもあるんだよ~」

カスミが横からスマホを奪い、勝手に探し始めて…「あったあった」と画面をこちらに差し出す。

「ほら、エンジニア向け転職サイト」

「カスミ、会う前から探してたのか? 今日の相談の内容なんて言わなかったよな?」

「女のカンってヤツよ。まあ、さっさと仕事の問題を片づけて、アキにアプローチしてちょうだい」

しつこいなぁ…と自分でも「エンジニア転職」と検索してみる。「IT転職」「フリーランスエンジニア」…といくつもの関連サイトが出てくる。

「マサトはどうしてアキにだけ、張り合おうとするんだろうね。好きな人に弱みを見せたくないとか、そんなとこ?」

ふ~ん、フリーランスって手もあるのか。

図星だが、そんなこと認めるわけにいかない。完全無視。

だが、転職に成功して、仕事で本当に自信が付いたら、もっと素直になれたりするんだろうか?

いやいや。今は転職のことだ。

「じゃあ、ちょっと調べてみるわ。ありがとな、カスミ」

「相談ごとはこれで終わり? じゃ、タクミを呼ぶわね、パーっと飲もう」

「え?」

「最初はね、タクミも同席しなよって言ってたんだけど、タクミが『マサトが話しにくいかも知れないから、大丈夫そうだったら呼んで』って」

「タクミのくせに、変な気を回しやがって…」

「あら、タクミはいつも気遣いの人よ。意外と何もかもお見通しだったりして~♪

LINEか何かを操作しながら、ちらっとこちらを見て言う。

なんとも複雑な気持ちで苦笑いを返すしかなかった。

つまらない、小さなプライド守るために虚勢張って、反対に周りから気を遣われていた?

大きな人間に見られたくて、意外と一番小さかったのは自分かも知れない。

ちょっと凹んだのを気づかれたくなくて、運ばれてきたグラスを乱暴に手に取った。

タクミの優しい気持ちに触れ、肩の力を抜こうと思うマサト。彼が出した答えは…

第7話に続く
2回目のスタートライン_7話【短編小説】2回目のスタートライン☆第7話

執筆:chewy編集部 みや (@miya11122258