【短編小説】2回目のスタートライン☆第5話

2回目のスタートライン_5話

タクミの場合②~道はひとつじゃない

人生のひと休み

「タクミはまじめで優しすぎるのが良くないの。まずは、余計なことを考えずに、心と体をしっかり休めて。」

僕は看護師である友人のカスミの助言を想い返して、余った時間を気負わずに、でも有効に使うことにした。

仕事や上司、同僚が合わず、精神的にも肉体的にも追い詰められていた。

誰にも相談できず、心は悲鳴を上げていたのに、自分では気づかず、危うく命を落とすところだった。

それでも、運が良かったと思う。

車道に倒れたにもかかわらず、自動車にはどうにか轢かれずに済んだこと。

運ばれた病院には昔からの友人であるカスミが勤務していたこと。

さらに、カスミが僕の精神状態を察知してくれたことも。

もう少しこの状況が続いていたら、今度は「倒れて」どころか自ら車道に飛び出したりしていたのではないだろうか?

このラッキーを無駄にしないためにも、リフレッシュを兼ねてアルバイト探しを始めることにした。

再び正社員として働き出す前に、アルバイトでワンクッション置きたいと思ったんだ。

旅行や趣味でリフレッシュする人もいるけど、今の僕は金銭的に余裕があるわけでもないから、お金を使う楽しみをしてもきっと余計に不安な気持ちが増えるだろう。

だから、お金も稼ぎつつこれまでとは違った環境を体験できるアルバイトをしようと決めた。

仕事なんて選ばなきゃ山ほどあるけど

周りからは「のんびり屋」にみられることが多い僕だけど、実のところ割と行動的だし、じっとしていられないタイプなんだ。

まずは手始めに…とバイト求人に登録しつつも、やはり先々のことがちょっと気になって覗いてみた転職サイト。

急いで正社員の職を探すつもりはないから、サイト内の読み物コンテンツなどに目を通してみる。

どの転職サイトにも、転職成功のインタビューとか体験談とかが掲載されていた。

こういう成功体験は他人ごとでも気持ちが明るくなる。

みんないろいろな基準や条件で、いろいろな仕事を選んで生きていくんだ。

とにかく収入アップしたいという人も結構高い割合でいる。

「やりがいアップ」とか「仕事で人生が充実!」みたいな内容じゃないと、美談にならないから転職サイトには載らないけど、個人のブログなどでは結構見かける。

美談ではないけど、リアルな考え方だと思うよ、たしかに。

お金は大切だ。

でも、僕はやりがいや楽しく仕事できる環境がほしい。きれいごとかもしれないけど。

「大学を卒業したんだから、どこかの会社に採用されなきゃダメだ」って気持ちだけで就職活動したけど、今だから分かる、やりがいって大事だ。

だって、1週間のうち5~6日、しかも一日の大半を仕事して過ごすんだよ?

楽しくなければ続かないよ、きっと。

もちろん、お給料も良いに越したことはない。でも、お金だけを目的に、辛い仕事をするのは僕には無理だ

捨てる神と拾う神

体験談をいろいろと読み進めていくうちに、僕と同じような境遇の人を見つけた。

営業の仕事をしていたけれど辛くて退職。

今度は事務系の仕事を探していたらしい。

「へえ、事務もいいな、ノルマないだろうし」

彼も同じことを考えていたのだろう、事務系の求人をどんどん攻めていく。

ある時、彼は内勤事務の面接に行き、そこで営業経験を評価されて「営業マンとして働かないか」と勧められた。

「営業の仕事は自分に向いていない、他人と争うのは苦手だ」と断る彼に、面接を行っていた社長が説いて聞かせる。

「わが社の営業はチームワークが命だ、チーム内のメンバーはライバルではなく仲間だ。ノルマも評価もチーム単位、協力することで良い仕事ができるだろう」

彼の柔和な性格は、同僚と争うには向いていないが、チームプレーで協調するには向いていた。

彼は、説得に応じて入社を決めたらしい。

最後に良い表情でチームとともに写った彼の写真があった。

読み応えのある体験談だったが、僕はそれよりも「チームで営業」というスタイルに驚いた。

営業って、独りぼっちで同期のライバルと戦うものではないんだ…。

チームで協力して進める営業もあるんだ…。

 

もちろん、こんな会社ばかりではないだろう。

でも、今まで自分が勤めていたような会社ばかりでもない。

そのことにやっと気が付いた。

僕は、営業の仕事自体は嫌いじゃないんだ。

人と話をして、相談ごとを聞いて解決してあげる営業の仕事はやりがいがある。

もう一度、営業の仕事を探して、チャレンジしてみようかな?

今はまだ、少し迷いがあるけど、求人を探していけば、いろいろな企業との出会いの中から「よし、やってみよう!」と思える企業が見つかるかもしれない。

まさに「捨てる神あれば拾う神あり」だ。

以前の会社は僕には合わなかっただけ。

きっと僕に向いている営業の仕事だってあるはずだ。

友達の支え

「もしもし、カスミ? …いや、まだ転職活動を始めたばかりだよ。でも、もう一度がんばってみようと思えるようになってきたんだ。…うん、気を付けるよ。ありがとう。じゃあまた」

カスミに簡単に決意表明のような報告をした。今回はカスミがいてくれて本当に助かった。

看護師としてではなく、友達として寄り添ってくれた。アドバイスも助けになったけど、本気で心配してくれたことがうれしかったんだ。

…と。スマホを置いたとたんに鳴る着信音。

カスミだ。言い忘れたことでもあったのかな?

説教し足りなかったとか…なんて独り言をつぶやきながら出る。

「え? マサトとプチ飲み会? 珍しいね。いいよ、どうせ今暇だから付き合うよ」

僕が倒れた夜、マサトからカスミに何やら相談したいとメールがあったらしい。

ようやく落ち着いたから、カスミは僕の事件(?)の報告も含めてマサトに連絡をしたら、飲みに行くことになり、僕にもお誘いがきたんだ。

本当に珍しい。マサトは昔からそうだ、遊びに誘うことはあっても相談事を持ちかけることはなかった。

強くて堂々としていて、僕を「大学出ただけのバカ」と言ってせせら笑う。

でも、口が悪いだけで性格は悪くない。目の前で悪態をついても陰口は叩かない。

よく対照的な二人だと言われてきたが、僕は彼を尊敬しているし、好ましく思っている。…向こうがどう思っているか知らないけど。

でも、僕はマサトがいろいろなコンプレックスを抱えているのも知っているんだ。それに、グループの中にずっと思いを寄せている人がいることも。

「その話かなぁ…。そういえば前回の飲み会で恋愛話も出ていたし。」

今、気持ちに余裕が出たこともあって、普段は役に立たない僕だけど、たまにはマサトの役に立ってあげられたいと強く思った。

第6話に続く
2回目のスタートライン_6話【短編小説】2回目のスタートライン☆第6話

執筆:chewy編集部 みや (@miya11122258