残業手当は、決められた労働時間を超えて働いた人に払われる手当。正しく支払われなければいけないのに、意外と未払いや不足もあるようです。正しく残業手当を受け取るためには、私たち労働者自身も計算方法や未払い対策を知っておく必要があります。
残業手当とは?詳しく知って未払い予防
残業手当とは、残業した時間の対価として支払われる手当です。毎月の決まった給料以外に受け取ることができ、その金額は基本の賃金に25%上乗せしたものとなります。
残業手当は残業した分だけ、給料に追加しなければいけません。ところが、中には残業手当をごまかして未払いにする会社もあります。正しく残業時間が計算されなかったり、上乗せがなかったりといったケースも未払いに当たります。
36協定を結ばないと残業はできない
残業をしたら会社は残業手当を支払わなければいけませんが、そもそも残業は労使間で36協定を結ばないとできないものです。残業時間や休日労働などについてのルールを労使間で合意して、協定を結びます。
36協定は、労働者の権利や労働に関するルールを定めた労働基準法36条に基づいており、そこから「36協定」と呼ばれています。36協定を結んだら、労働基準監督署に届け出ます。36協定で定められる残業時間には上限があり、協定を結んでも一定時間以上の残業をさせることはできません。
期間 | 定められる上限時間 |
1週間 | 15時間 |
2週間 | 27時間 |
4週間 | 43時間 |
1か月 | 45時間 |
2か月 | 81時間 |
3か月 | 120時間 |
1年間 | 360時間 |
法定労働時間オーバーで残業手当が発生
残業手当は、法定労働時間をオーバーした時に発生します。法定労働時間は、1日8時間、週40時間となっており、法定労働時間を超えて働いた時間に対して25%割増のある残業手当が支払われます。
法定労働時間は労働基準法で定められているもので、その範囲内であれば会社が独自に労働時間を決めることも可能です。例えば1日7時間、週5日勤務で35時間労働ということもできます。これを「所定労働時間」といいます。
所定労働時間オーバーの場合には
所定労働時間は法定労働時間内で会社が定めた労働時間であり、所定労働時間をオーバーしても法定労働時間を超えない場合には割増をする必要はありません。ただし、企業内ルールで割増が必要ではない時間も残業手当として割増している会社もあります。従業員が損をしない条件であれば、労働基準法よりも企業内ルールを優先させることが可能です。
残業手当の計算はできる?基本の考え方を確認
残業手当がどんなものか理解できたら、残業手当の計算のルールも確認しておきましょう。基本的な計算ルールをはじめ、割増などの条件が法に基づいて決められているか、雇用契約書や就業規則をチェックしてみましょう。
残業手当の基本の計算方法
残業手当の計算では、毎月もらっている給料金額から時間給を算出することが必要です。給料を元に1時間当たりの給料を出し、それに残業時間を掛けて残業手当の金額を出します。残業手当の計算に含められるのは、基本給に加え、以下の条件に当てはまらない手当全部です。
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- 家族手当及び通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
参照:労働基準法施行規則
基本給と上記以外の手当の金額を労働時間数で割ると1時間の給料金額が算出できます。それを1.25倍したものが自分の1時間あたりの残業手当です。
固定残業代が出ているときの計算
固定残業代(みなし残業)制度を導入している会社の場合、みなし残業時間を超えた残業時間に対して残業手当が発生します。計算方法は、上記のパターンと同じです。そのため、固定残業代制度の会社では、みなし残業時間と給料に含まれているみなし残業代を明記する必要があります。
これらの記載がないと、固定残業代を理由にして過剰な残業をさせやすくなります。固定残業代を隠れ蓑にして残業代を支払わないブラック企業も多いようです。
休日や深夜の割増もプラス
休日出勤や深夜勤務でも残業手当同様に、割増があります。労働基準法で定められた週一日の法定休日に出勤した場合には、給料の1.35倍の割増賃金が必要です。
また、深夜勤務である22時~朝5時までは1.25倍の割増となります。残業で深夜まで働いたら、25%+25%=50%の割増が必要です。1時間あたりの給料×(1.25+0.25)で深夜残業代を算出できます。
残業手当はいくら?実際に計算してみよう
残業手当の計算ルールがわかったら、実際に具体例を挙げて計算を試してみましょう。一般的な固定給の会社員の例で残業代を計算します。
・基本給21万円
・家族手当2万円、通勤手当1万円
・週休2日
・勤務時間9:00~18:00(休憩1時間)
1時間あたりの賃金を求める
上記条件の場合、1時間当たりの賃金は以下のようになります。週休2日の場合、一般的な目安として勤務日数は21日で計算します。
21万円÷21÷8時間=1,250円
1時間あたりの給料は1,250円です。
残業時間を求める
例えば上記の場合、1日8時間、週40時間を超えた黄色部分と赤い部分が残業時間になります。休日の2時間も法定休日の場合には1.35倍です。会社独自に決めた所定休日の場合にも、1日あたりの労働時間8時間は超えていませんが、週40時間を超えているので残業手当と同じく1.25倍の割増が必要です。
また、18時終業の会社で4時間を超える残業をすると22時をオーバーし、深夜手当が必要となります。そのため、赤い部分に関しては残業手当+深夜割増で計算します。
割増率を掛けて合計する
上記のケースの残業代を計算してみましょう。
1,250円×1.25=1,563円
1,563円×9時間=14,067円(黄色部分のみ)
1,250円×(1.25+0.25)=1,875円
1,875円×2時間=3,750円(赤い部分のみ)
黄色と赤の部分を合計した14,067円+3,750円=17,817円がこの週の残業手当となります。
残業代が計算できるツールも
残業手当の計算は、割増などが面倒です。自分では計算したくない場合には、ツールの活用もしてみましょう。残業代請求の資料として提出できるものもあります。
残業手当未払いや金額の不足があったら
残業手当の未払いは、過去にさかのぼって請求することが可能です。そのために必要なアクションを起こしてみましょう。まずは会社に申し出てみる、そこで門前払いを食らったら、第三者機関へ相談することも大切です。
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証拠を集めて未払い残業手当を請求
残業手当の未払いや金額におかしい点などがあったら、証拠を集めておくことが大切です。会社に直接請求する際にも有利ですし、第三者機関を使う場合には客観的な証拠がないと組織を動かすことができません。
請求のために必要な証拠としては、タイムカードやパソコンのログ、取引先や上司などとのメールのやり取りなどがあります。メールは時間外に仕事のやり取りなどがあれば、それも証拠のひとつです。また、日記や家族への「これから帰る」という内容のメールなども過去には証拠として認められたケースもあるようです。
残業手当の請求は時効が2年
残業手当の未払いの請求は、時効が2年となっています。そのため、2年以上前のものは請求が難しくなりそうです。今請求しようと思っている場合には時効が切れる前に請求しましょう。
ブラック企業なら転職も考える
過去の残業代の支払いを拒否したり、残業手当の未払いが続いていたりという会社は、ブラック企業の可能性が高くなります。ブラック企業なら、たとえ今回残業手当の請求がうまくいっても、これから先も同じ悩みを抱える可能性もあるでしょう。
また、残業手当を請求したことで会社内に居づらくなることもあります。もし勤務している会社の未来に希望が持てなさそうであれば、転職も選択肢の一つに入れてみましょう。
残業手当を計算してしっかり請求を
残業手当がどんなときに支払われるものであるか、どのように計算されているか、知っておくことは大切です。もしも自分の会社が正しいルールの元で残業手当を支払っていないなら、正しい金額を請求しましょう。残業手当には時効もあるため、早めの請求をおすすめします。また、未払いを繰り返したり、支払いを渋ったりする会社はブラック企業の恐れがあり、残業手当の請求だけでなく転職も考える必要がありそうです。