「やぶさかではない」は”やりたい”を表す言葉
部下
課長
部下
「やぶさかではない」とは、“やりたくないというわけではない”。つまり「やりたい」を表現する言葉です。
「やぶさか」という言葉自体があまり耳慣れない表現ですが、「やぶさか」と否定を伴う「ではない」の言葉を組み合わせることで、”本当はやりたい”との意味を表現できます。
まだ意味がぼんやりしている人は「やぶさか」を「まんざら」に言い換えてみてください。今ではあまり使われない表現でも、別の言葉・類語表現に言い換えてみると、その言葉の意味がイメージしやすくなります。
・異論はない
・差し支えはない
「やぶさかではない」の漢字表現と意味
そもそも「やぶさか」という言葉自体が何を意味するのか。「やぶさか」という単語を否定して、初めて「やぶさかではない」の意味が完成します。
「やぶさか」とは漢字で「吝か」と書き、物事に対して”惜しむこと”や”気乗りしない”ことを示す言葉です。相手に何かを頼んだときや促すとき、それに対して出し惜しみや渋るさまを”やぶさか”と表現します。
「やぶさかではない」の「やぶさか」はもともと”否定的なさま”をあらわす言葉。「やぶさか」を否定することで逆の意味の”本当はしたい/やりたい”ことを表現する「やぶさかではない」という言葉が成り立ちます。
このように否定的な表現をさらに否定することで、逆の意味を表す表現法を【緩叙法(かんじょほう)】と呼びます。ここで緩叙法の一例をご紹介しましょう。
例文1,2,3はそれぞれ否定する形で文章を締めています。それぞれが示している言葉を否定しており、例えば賢くないとは”愚か”とも受け取れる表現。つまり”愚か”と直接的な表現を避け、”本当は愚か”と遠回しのニュアンスで相手に言葉を伝えています。
このようにいわゆる”言葉のアヤ”を用いることで、表現にバリエーションをもたせる技法を”修辞技法”と呼び、緩叙法は”逆の意味を否定して直接的な表現を避ける修辞技法のひとつ”になります。
「やぶさかではない」の使い方・例文
元の言葉を否定して、積極的であることを示す「やぶさかではない」。打ち消しの言葉を使用するため、誤解や誤用をしている人も多い表現です。ここでは「やぶさかではない」の正しい使い方について例文を交えてご紹介します。
「やぶさかではない」はビジネスシーンで使うと失礼?
“否定の言葉”にはネガティブなイメージがつきやすいものですが、「やぶさかではない」は決して失礼な表現ではありません。むしろ、”全然そんなことはありません”という積極性を示したビジネスシーンでも使える言葉です。
目上の人に使う場合は「やぶさかではありません」と丁寧語に直して使うのが適切です。
「ではない」の部分だけがクローズアップされますが、否定(ネガティブ)を強調しているのは「やぶさか」という言葉にあります。”否定”を”否定する”ことで意味を裏返すのが「やぶさかではない」の使い方です。
回りくどい表現になるので、シンプルな物言いを好む相手には使用を控え、「同意します」や「賛成です」と直接的に肯定する別の表現に言い換えるとよいでしょう。
「やぶさかではない」を使った例文
ビジネスシーンでも使える「やぶさかではない」の例文を挙げていきましょう。
ニュアンス的には”嫌ではない”という形で使います。”否定表現で肯定する表現”なので回りくどい使い方にも見えますが、会話の引き出しを増やせる知識として覚えておいて損はない表現方法です。
先の項でもお伝えしましたが、目上の人に使うときは「やぶさかではありません」と丁寧に言い換えるのが適切です。
「やぶさか」を使った否定的な例文
今度は「やぶさか」を使った否定的な例文を見ていきましょう。
「やぶさか」の本来の意味は”出し惜しみ”や”否定”。今風に言えば”ケチる”とも表現できる言葉です。”嫌です”や”お断りします”の直接的な表現を避け、遠回しに”やりたくないけど仕方なく~”という”乗り気ではない”、”気が進まない”というニュアンスで使用できます。
否定的な表現はビジネスシーンでは好ましくなく、受けるときも恩着せがましい表現になるため、よほどのことがない限り使用するのは控えたほうがよい表現です。
「やぶさかではない」の類語
近年では使用する人が少なくなりつつある「やぶさかではない」ですが、同じ意味の表現や類語は日常会話にも浸透しています。ここでは「やぶさかではない」の類語を「~ではない」を使った例文でご紹介します。
まんざらではない
ニュアンス的には”悪い気はしない”という意味で使用されている言葉です。現在は「まんざらではない」のほうが「やぶさかではない」よりも使う人が多い表現となっています。
日常会話でも幅広く使われており、雑談や冷やかしにも使われている表現です。少し硬い表現の「やぶさかではない」に比べてカジュアルな使い方が可能。ビジネスシーンでも意味を理解している人が多く、「やぶさか」よりも意図を伝えるのが容易です。
異論はない
相手からの申し出や提案に対し、”口を挟まない”や”否定しない”という意味の表現です。内容に問題がないと判断したときに肯定の意味として使用できます。
「異論」と同じ意味で使われる言葉に「異存」があり、こちらは”ほかと異なる考え”や”意見に対する不服”を示す言葉。「異論」からそのまま言い換えることも可能です。
会議の場では多数決をとることや意見を聞かれることも少なくありません。そういうシチュエーションでの”自分には不服がない”ことを示すときに使用できます。
差し支えはない
「差し支え」は「さしつかえ」と読み、“物事を行なうのに支障がないこと”をあらわす表現です。
人にものを頼むとき、頼まれたとき。自分や相手の都合・条件といった事情が障害にならないかを考慮する必要があります。そのようなシチュエーションで問題がないときの返事に使用できます。相手の都合を聞くときにも「差し支えはありませんか?」と使えます。
「やぶさかではない」の英語表現・例文
「やぶさかではない」はビジネスシーンでも使われる言葉。英語で表現しなければならないシーンが出てくることも考えられます。いざという時のために、会話やメールでの使い方を確認しておくと安心です。
it is not bothersome
と表現できます。
「やぶさかではない」を使用した肯定の例文はこちらです。
⇒調査はやり甲斐があるので、やぶさかではありません。
・It is not bothersome to be entrusted, but I want some time.
⇒任されるのはやぶさかではないが、少々時間が欲しい。
・It is not bothersome to cooperate if asked.
⇒頼まれれば協力するのはやぶさかではない。
否定の例文も確認しておきましょう。
⇒お言葉ですが、その指示に従うのはやぶさかです。
・Although it is bothersome for you, I will be in charge this time only.
⇒やぶさかではありますが、今回だけは担当させていただきます。
「やぶさかではない」の正しい使い方をマスターしよう!
「やぶさかではない」は”否定の表現”ではなく、”逆の意味で肯定する表現”です。誤解されやすい表現方法ですが、本来は本音をあらわす前向きな言葉としてビジネスシーンでも使用できます。みなさんも誤解のないように正しく「やぶさかではない」を使ってくださいね!