「させていただく」は誤用が多い敬語
上司
新人
上司
「させていただく」はビジネスシーンだけでなくテレビや日常会話でもよく耳にするフレーズですが、誤用の多い敬語の一つでもあります。
ただし「させていただく」という言葉自体は日本語として間違いではありません。あくまで多用しすぎると幼稚な印象になったり、場合によっては失礼にあたるため注意して使う必要があります。
そこで今回はビジネスシーンでスマートに「させていただく」を使いこなせるよう、正しい意味と使用上の注意点を詳しく解説していきます。
また「させていただく」は丁寧語の「ます」と組み合わせて「させていただきます」と使う場合も多いため、本記事では同じ意味の言葉としてご紹介します。
「させていただく」の意味・正しい使い方・例文
「させていただく」は正しく使えば、低姿勢な印象を与えるフレーズとして活用できます。ここからは「させていただく」の意味と正しい使い方を例文といっしょに確認していきましょう。
「させていただく」の意味
「させていただく」は「させてもらう」の謙譲表現で、相手の許しのもとに自分の行為・動作をさせてもらうという意味の言葉です。
「させていただく」は敬語なので、目上の相手やお客様に対しても使うことができます。
「させていただく」が使えるのは2つの条件を満たしたとき
自分の行為・動作に対して「させていただく」が使えるのは、以下の2つの条件を満たしたときが適切とされています。
それは「第三者や相手から許可を受けている場合」と「自分が恩恵を受ける場合」です。
たとえば「会議の開始時刻を変更させていただきます」という文章があります。これは予定を変更するには「相手の許可・了承」が必要で、また変更によって「自分が恩恵を受ける」という意味を持つため、正しい使い方といえます。
「させていただく」を使った例文
ビジネスシーンにおいて「させていただく」は、取引先やお客様に対して謙虚な姿勢を示す表現として使われます。ここからは「させていただく」を使った例文をシチュエーションごとにご紹介していきます。
相手から許可を受けている場合の「させていただく」を使った例文
「明日の会議はご一緒させていただくのでよろしくお願いします」
「ご依頼の品をお約束の時間に搬入させていただきます」
仕事の同行や納品・搬入などは、相手の許しがなければできない事柄なので「させていただく」を使うことができます。
相手から依頼を受けた場合の「させていただく」を使った例文
「本日司会を務めさせていただくことになりました○○と申します」
「結婚式には喜んで参加させていただきます」
依頼や招待を受けた事柄も、相手の了承をもらったとみなせるので「させていただく」を使うことができます。また「仕事の依頼=利益を得る」「招待される=楽しい場に参加できる」ことになるので「自分が恩恵を受ける」という条件にも該当します。
「させていただく所存です」も使い方として正しい
ビジネスシーンでは「させていただく所存です」というフレーズが使われることがありますが、これも正しい使い方のひとつなのでぜひ覚えておきましょう。
「所存です」は「思う・考える」の謙譲語で「○○するつもりです」「○○しようと思います」という意味の言葉です。ビジネスシーンでは目上の人に自身の考えを述べるときに使います。
そのため「させていただく所存です」は「これから相手の了承を得て、何かをしようと思っています」という意味合いになり「ぜひやらせてもらいます」と宣言するニュアンスです。
「誠心誠意、尽力させていただく所存です」
「明日の式典は何をさておいても参加させていただく所存です」
「所存」は堅い表現なので、一般的には話し言葉よりもビジネスメールや文書で使う言葉です。実際に「させていただく所存です」を使う場合は、文章全体をみて過剰にへりくだっていないかを確認するようにしましょう。
「させていただく」の注意点
「させていただく」は使える条件を満たしていればOKというわけではありません。ここではビジネスシーンで「させていただく」を使用する際に、気をつけなければならない注意点を3つご紹介します。
「させていただく」は「頂く」と漢字で書かない
「させていただく」を「させて頂く」と表記している場合もありますがこれは誤りです。「いただく」と「頂く」にはそれぞれ別の意味があるため、漢字とひらがなの表記を使い分ける必要があります。
漢字の「頂く」は「食事を頂く」や「プレゼントを頂く」など、「食べる・飲む」「もらう」の謙譲語として使用する場合に使われます。
一方ひらがなの「いただく」は「ご覧いただく」や「お越しいただく」など、補助動詞としての役割のときに使用します。そのため「させていただく」はひらがなで表記するのが正解です。
二重敬語に注意
「させていただく」を使う場合は、敬語に敬語を重ねた「二重敬語」に注意しましょう。
誤「拝見させていただきます」
⇒正「拝見いたします」
誤「伺わさせていただきます」
⇒正「伺います」
例文の「拝見」や「伺う」などすでに謙譲の意味を持つ敬語動詞に「させていただく」を使うのは誤りです。このパターンの間違いは「させていただく症候群」の特徴として挙げられやすく、非常にくどい表現に聞こえるので特に要注意です。
「さ入れ言葉」にも注意
「させていただく」を使う際は、丁寧な表現にしようとして「○○せていただく」と表現すべき言葉を「○○させていただく」といってしまう場合があります。これは「さ入れ言葉」と呼ばれ、文法的に間違いなので注意しましょう。
誤「行かさせていただきます」
⇒正「行かせていただきます」
誤「休まさせていただきます」
⇒正「休ませていただきます」
誤「ぜひ、やらさせていただきます」
⇒正「ぜひやらせていただきます」
「させていただく」の言い換え表現
「させていただく」はとても丁寧な表現ですが、使いすぎるとかえって失礼な印象を与えることもあります。
そのため特に相手の許可が必要ない事柄の場合は「させていただく」を「する」の謙譲語「いたします」と言い換えるとよいでしょう。場合によっては「です」と言い切ってもOKです。
誤「この度○○さんと入籍させていただくことになりました」
⇒正「この度○○さんと入籍いたします」
誤「来春○○大学を卒業させていただく予定です」
⇒正「来春○○大学を卒業予定です」
誤「メールを確認させていただきます」
⇒正「メールを確認いたします」
入籍・卒業・メールの確認などは、自分の意思で行うこと・すべきことであり、相手や第三者の許しが必要なことではありません。そのため「させていただきます」を使うのは適切ではありません。
つい習慣で「させていただく」を使ってしまう人は、言葉に出す前に「相手の許可・依頼・恩恵を受けているか?」「いたしますに言い換えできないか?」と頭の中で整理するように心がけましょう。
「させていただく」の英語表現
誤用に気を付けたい「させていただく」はビジネスシーンでも使われる言葉です。そのため、英語で表現しなければならないシーンが出てくることも考えられます。いざという時のために、会話やメールでの使い方を確認しておきましょう。
「させていただく」は英語で・・・
I will …
と表現できます。
「させていただく」を使用した例文はこちらです。
・I will be with you tomorrow’s meeting.
⇒明日の会議はご一緒させていただくのでよろしくお願いします。
・I will bring in the products you requested.
⇒ご依頼の品をお約束の時間に搬入させていただきます。
・My name is ○○ and it was decided that I will be the moderator today.
⇒本日司会を務めさせていただくことになりました○○と申します。
・I will happily participate to the wedding.
⇒結婚式には喜んで参加させていただきます。
「させていただく」の正しい使い方をマスターしよう!
「させていただく」は「第三者や相手から許可を受けている場合」と「自分が恩恵を受ける場合」に使えるフレーズです。これらの条件以外のパターンで「させていただきます」をむやみに使ってしまうと、敬語が使えない未熟な印象を与えてしまう可能性もあります。適宜「いたします」と言い換え、「させていただく」を多用しないように工夫して使いましょう。
ビジネスシーンにおいて「させていただく」は正しく適度に使えば、丁寧で低姿勢な態度を示すことができます。相手や状況に応じて「させていただく」を上手に使いこなせるビジネスパーソンを目指しましょう!