ハインリッヒの法則とは『労働災害における経験則』
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『ハインリッヒの法則』とは、ちょっと耳慣れない言葉ですね。でも、それをわかりやすく表現した、「ヒヤリハット」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。
ここでは、『ハインリッヒの法則』の意味や生まれた背景、それと似たほかの法則との違いなどをわかりやすく解説します。危機管理の面で大切なことなので、しっかり理解していきましょう。
ハインリッヒの法則の意味をチェック
ハインリッヒの法則の意味を、例を挙げて説明します。
仮に、同じ人が労働を行う上で330回のアクシデントに見舞われたとしましょう。その内訳が、1回は生死に関わる重傷を負い、29回は応急手当だけですむ軽傷を負い、300回は無傷ではあるが「ヒヤリ」「ハット」するアクシデントがあるというものです。
ここからは、ハインリッヒの法則が知れ渡った背景について、解説しましょう。
ハインリッヒの法則が知れ渡った背景
この法則の提唱者であるハーバート・ウィリアム・ハインリッヒは、アメリカの損害保険会社の安全技師です。彼は5,000件以上の労働災害を調査しました。
そこで得られた情報をもとに、別名「1:29:300の法則」または「ヒヤリハットの法則」とも呼ばれるこの法則を、統計学的に明らかにしています。
1951年に日本においてもハインリッヒ氏の著書が翻訳され、危機管理の手法として、この法則が伝わっていったのです。
現在では、建設業・製造業などの産業界や、医療および行政などの多くの分野において、重要な法則として活用されています。
ハインリッヒの法則が現れやすい環境は?
ハインリッヒの法則が特に重視される現場や環境について触れておきましょう。
まずは交通事故です。車社会である現代は、ドライバーの多様さも交通事故に大きく影響しています。例を挙げると、時間の制限があるトラック・ドライバー、膨大な件数の荷物を運ぶ配送ドライバー、危険物を運ぶトレーラーのドライバーなどです。
彼らとその車がひしめく道路は、それ自体がすでに数多くのヒヤリとした状況をはらんでいます。そのうえで、個人的な感情の起伏や天候障害、見通しの悪い場所、スマホを触りながらの運転などが原因で、重大な事故へとつながると考えられるのです。
また、医療や介護の現場におけるアクシデントにも、ハインリッヒの法則が当てはまります。人命に関わる現場では、ハインリッヒの法則の認識が不可欠です。すべてのスタッフが大きなアクシデントを防ぐために、日頃の小さなミスやヒヤリハットの情報を把握し、緊張感を持って業務にあたることが求められます。
ハインリッヒの法則は、重要なカスタマーサービス用語のひとつでもあります。企業の製品やサービスに顧客が満足できなかったときに「クレーム」としてフィードバックされますが、このクレームをハインリッヒの法則にあてはめて考えます。
つまり、企業が致命的なクレームをひとつ受けた背後には、ちょっとしたクレームが29あり、さらに300の表面化しないクレームが隠れている、と捉えることができるのです。
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ハインリッヒの法則の英語は『Heinrich’s law』
ハインリッヒの法則は英語で表すと『Heinrich’s law』となります。意味としては日本語で使われる場合と変わりません。
以下に例を挙げます。
労働者はすべからくハインリッヒの法則の重要性を知らなければならない。
ハインリッヒの法則とバードの法則の違い
ハインリッヒの法則が提唱されてから半世紀近くを隔てて、より膨大なデータをもとにした「バードの法則」が発表されました。これはハインリッヒの法則の精度をより上げたものと考えてよいでしょう。
バードの法則では、アメリカでの事故のデータから、ともすれば生死に関わりかねない重大な事故、軽傷を負う軽い事故、物損事故レベルのもの、ニアミスで実害が出ていないものの割合を提唱します。報告によれば、それらの割合は1:10:30:600です。
ハインリッヒの法則の使い方・例文
日常的にはあまり聞かれないハインリッヒの法則ですが、ビジネスシーンでの会話ではいったいどんな使われ方をするのでしょうか。例文で見てみましょう。
先輩
新人
先輩
上司
[おまけ]ハインリッヒの法則が誤解されている場合もある?
ハインリッヒの法則は数多く引用されていますが、その引用のされ方が不適切と思われるものがあるようです。
つまり、「1:29:300」の比率の部分のみを引用しており、330種類の「事故の重篤度の比率」を表しているという誤解を与えかねないものになっています。
ハインリッヒの法則は、あくまで「ひとりの人」に330回のアクシデントが起きた場合、という前提です。「別々に起こる330回のアクシデント」がそういう割合で起こると説いているのではありません。
ひとつのアクシデントの背景に、それに至る無数の不安全状態が潜んでいるというのがこの法則に込められた主張です。
話題の主旨に合っているかに気をつけて使おう
ハインリッヒの法則は単なる確率論ではありません。常日頃のアクシデントに対する意識がどれだけ大切かを強く訴えているのです。その言葉を使うときは、話題の主旨と合っているかに注意して使いましょう。