メガバンクでキャリアを積み上げていた今崎湘子さんは、昇進と妊娠が重なり、葛藤の末、退職することを選んだ。2020年12月からは、ライターとして活動し、様々な媒体で記事を執筆。さらにペットフーディスト、愛玩動物飼養管理士の資格を取得し、今では動物ライターとして活躍している。過去にはキャリアを諦めたこともあったという今崎さんに、動物ライターになった背景を伺った。
入社8年目、昇進と妊娠が重なる。
今崎さんは大学卒業後、メガバンクに入行して外国為替取引の業務を担当した。支店で3年、本部で5年働き、着実にキャリアを積み上げていった。
転機が訪れたのは、入社8年目のときだった。何度も挑戦していた特定総合職の試験に、4度目でようやく受かった。晴れて昇進したのだが、当然責任は増す。外国為替取引は、当日の公表相場(為替レート)が決定する朝の10時までが勝負だ。処理するべき膨大な仕事量で行員それぞれが忙しく、1人でも足りないと、業務に支障がでる。今崎さんは特定総合職に昇進したことで、部下が仕事しているのに自分が先に帰ることは迷惑がかかると思い、夜8時まで仕事をしていた。
昇進して3カ月後、妊娠がわかった。結婚3年目で、半ば諦めかけていたときだったという。つわりが酷いなか、マネジメントや自分の業務をこなし、妊娠前と変わらない仕事量をこなした。当時は女性活躍推進というものはなく、時短勤務で働く環境はまだ整えられていなかった。
ある冬の日の夜、ハンガーラックには今崎さんのコートだけが残っていた。
「子どもがやっときてくれたのに、こんなに遅くまで働いていていいのだろうか。何を大事にするべきなんだろうと思った瞬間でした。でもキャリアを捨てることに葛藤もあって。当時は、キャリアか子どものいずれかを選ぶしかない、そういう状況でした」
悩んだ末、今崎さんは銀行を辞める決断をし、専業主婦として生活することを選んだ。
働き始めるも育児との両立で葛藤
それから娘を出産し、家事育児を一手に担った。さらに4年後には次女も生まれる。毎月、みなとみらいで開かれる県警のマリンコンサートを楽しみに、今崎さんは日々の育児に奮闘していた。
長女が小学4年生、次女が幼稚園の年長になった頃、半年間だけ地元の公共施設で働いていたそうだ。
「子どもが学校に通っている間、時間が空いたので働こうと思ったんです。
施設の受付と会計の仕事でした。勤務時間はシフト制で、半年先まで勤務日が決まっていました。あるとき、出勤日が幼稚園の参観日と重なることがあったんです。シフトを交代できれば良かったのですが、偶然、他の方も参観日の予定が入っていて。結局、次女の参観は叶いませんでした」
今崎さんは一旦、仕事を辞めることにした。このときの経験を機に、次に働くのは次女が10歳になるまで待とうと決めた。
在宅で好きなことに関われる仕事に出会う
次女が10歳になり、今度こそ働きに出ようと思った。外貨両替の業務が募集されているのを求人サイトでよく目にしていた今崎さんは、それに応募しようと考えていたのだが、コロナ禍で募集はなくなっていた。そこで彼女は、在宅でできる仕事を探し始める。たまたま見つけた求人サイトがクラウドワークスで、そこでライターという仕事に興味を持った。
今崎さんはまずクラウドワークスのライター講座を受け、Webライター検定の3級と2級を取得した。
そして初めて書いた記事は、ペット自慢の投稿だった。
今崎さんは、赤ちゃんの頃から犬が好きだった。
「小さい頃から、近所で犬を飼っている人によく触らせてもらっていました。5歳の頃、幼稚園の友達が柴犬に似た雑種犬を飼っていたんです。その犬が子どもを産んだので、私の母に頼んで、子犬を一匹もらいました。カールと名付け、私が19歳になるまで共に生活しました。カールは私の話を聞いてくれたり、常に寄り添ってくれたり、まるで親友のような関係でした」
ほかにも盲導犬のパピーウォーカー、盲導犬の引退犬など、常に何かしら犬と関わってきたという。2年前には、里親募集から保護犬のトイプードルを1匹引き取った。
そんな大好きな犬について書けたことで、ライターの仕事が楽しいと感じた。同時期に、ヘアスタイルの記事のテストライティングにも受かった。子どもの頃は美容師になりたかった。実際は違う道に進んだが、ヘアスタイルを記事で紹介することで、別の形で夢が叶ったような気持ちになれた。そして、他にもあった子どもの頃になりたかった職業に関する記事を書こうとライターへ。
そこで犬に関わる仕事にも就きたかったなと、動物関連の資格に興味を持った。
資格の取得がきっかけで、動物ライターになる
今崎さんは「ペットフーディスト※」と「愛玩動物飼養管理士※」の資格を学んでみたいと思った。その資格があれば、飼っている犬にも役立つと考えた。
そして、2つの資格を取ることを決意し、勉強を始めた。
※ペットフーディスト・・・犬と猫の食の専門家
※愛玩動物飼養管理士・・・「動物の愛護及び管理に関する法律」の趣旨に基づき、愛玩動物の習性や正しい飼い方など、必要な知識・技能を持っている専門家
先にペットフーディストの資格を取得した。
その後、Indeedでもライターの仕事を探し、犬に特化したWebメディア「INUMAG」を立ち上げるクライアントさんと出会う。
今崎さんはペットフーディストの資格を持っていたため、INUMAGでは、犬が食べていい食材の記事をシリーズで書かせてもらえるようになった。
そして愛玩動物飼養管理士の資格を2021年12月に取得した。この資格の勉強をするなかで、動物愛護や動物福祉のことも書けるライターでありたいと思うようになった。そして肩書きを、動物ライターに変えた。
「メディアで記事を書いているなかで、私自身、飼い主として教育させられていると感じます。飼っている方がちゃんと犬を受け入れる体制、環境を作ることが大事だと、取材で聞いたこともありました」
今崎さんは、あまり犬が好きでない人の立場も考えるようになり、視野が広がったそうだ。さらに動物ライターとして、犬以外の動物の記事も書いてみたいという。目を輝かせて語る姿に、私は愛情深さを感じた。
画像提供:今崎湘子
取材・執筆:つか(@tsuka_0806)
編集:中村洋太(@yota1029)