「意趣返し」は皮肉ではない
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「意趣返し」とはみなさんが思っている以上に古い言葉で、 本来の意味は皮肉ではありません。
現代では「意趣返し」=「皮肉」と思い込んでいる人が多いのは、皮肉を用いて「意趣返し」と表現するシチュエーションがあまりにも多いことが要因です。
まず、「意趣返し」の類語には「かたき討ち」や「復讐」といった言葉があります。これだけで「意趣返し」の「意趣」とは”何を指して、何を返しているのか”イメージが固まってしまいそうですね。
次の項からは「意趣返し」が生まれた時代、意味、読み方について解説しましょう。
・復讐
・雪辱
・報復
・仕返し
・・・など
「意趣返し」の読み方・語源・意味
「意趣返し」は「いしゅがえし」と読み、「仕返し」と同じ意味として使われる言葉です。現代では”冷やかし”や”ちょっとしたお返し”という軽い意味合いでも使われていますが、類語例からもわかるようにとてもネガティブで攻撃的な表現になります。
現代では「意趣」のことを「恨み」や「遺恨」を指し、それらの負の感情を人に向けたものを「意趣返し」と表現しています。厳密に言えば、意趣返しには”皮肉も含まれる”と説明するべきでしょう。
・理由、事情。意(こころ)。
元は仏教の教えで”人の心が向かうところ”を意味し、「意趣」が誕生した当時は漢字が示す”理由”や”意味”、”雰囲気”をあらわす言葉でした。やがて時代が進むにつれて考えが負の感情へと転じ、「復讐」や「仕返し」というネガティブな意味へと変わります。
中国で誕生した仏教の教えである「意趣」。なぜ現代のような負のイメージが根強くなったのかはさだかではありません。戦乱や戦争といった、人の心がさまざまなネガティブ感情で占められたのか、あるいは理由が別にあるのかは断定されていません。
「意趣返し」の使い方・例文
起源である「意趣返し」は「人の考え」をあらわす言葉。しかしながら、現代では”仕返し”の意味合いで受け取られるため、本来の意味として使うにはリスクの高い表現です。では、どのようにして使うべきか。「意趣返し」の無難な使い方をご紹介します。
ネガティブな言葉を安易に人に向けることは新たな火種を生みかねません。それこそ「意趣返し」に次ぐ「意趣返し」となり、人として健全な行為とはいえません。
多くの人と関わる機会のあるビジネスシーンでは直接人に向けるのではなく、”ひとつの言葉の表現”として使うのが好ましいです。とはいえ、あまりイメージのよい言葉ではないため、多用は控えるべきでしょう。
もしも人に向けて使うときがくるとすれば、それはつもりに積もった”積年の恨み”を爆発させるときになるでしょう。
「意趣返し」の類語
単純に「仕返し」という意味でなら「意趣返し」の類語は数えきれないほどです。使い分けるなら”何を仕返しするのか”で使う言葉を選びましょう。それでは次から「意趣返し」の類語をご紹介します。
かたき討ち
「かたき討ち」とは「敵/仇」を「討つ(うつ)」と書いて、敵や恨みをもつ相手に仕返しをする言葉です。仕返しをする対象への明確な敵意や危害を向けた表現です。
「かたき討ち」の「かたき」に用いられる漢字である「敵」はそのまま敵、害をなすもの。「仇」は恨みのあるものを指します。この言葉からわかるように遺恨のある相手に向けた使い方をします。
もっと具体的な表現には「復讐」があり、受けた恨みと同等かそれ以上の危害を加えることを目的とした怨念のこもった言葉です。
雪辱
恥をすすいで名誉を取り戻すことを表現する言葉です。これまでの「意趣返し」やその類語に比べて使用頻度が高く、競技の世界において一度敗れた相手に向けて使用する機会が多い表現です。
プロ野球の松坂大輔選手が1年目で使用し、流行語にもなった「リベンジ」。主にこちらの意味で「雪辱」が使われることが多く、「仕返し」という意味のなかでも比較的正々堂々の精神で使われています。
「仕返し」と同じ意味合いの言葉をビジネスシーンで使用するなら「雪辱」がベターですが、「雪辱を晴らす」という誤用の多い表現です。
「雪辱」とは”名誉を取り戻す”という目的を果たす言葉であって、”取り去って晴らすこと”ではありません。恨みや疑いを「晴らす」と混同する人が見受けられるので注意して使いましょう。
参考 どちらを主に使うか(文化・スポーツの用語)国語に関する世論調査 - 文化庁報復
個人に対しては「仕返し」の意味をもち、国家間では「不当な行為を働いたこと」への同等の行為による措置を指す言葉です。
企業間での取引や個人との契約では、相手からの予期せぬ「報復」が起こりうる事態が考えられます。例えこちらが正論を用いても、それが必ずしも相手に通用するとは限りません。「報復」対策もビジネスパーソンにとって必要な備えです。
「意趣」を使ったそのほかの言葉
類語のほかにも「意趣」を使った言葉はさまざまあります。「意趣返し」以外のほかの表現もチェックしていきましょう。「意趣」がどのような言葉であるかの理解を今一度深めましょう。
「意趣卓逸」
「いしゅ-たくいつ」と読み、考えが素晴らしく抜きんでていることを表現する四字熟語です。
とても優れていて”抜きんでる”という意味の卓逸(卓越)を使い、「意趣」の本来の意味である”人の考え”をポジティブに表現した前向きな言葉です。
「意趣遺恨」
忘れられない、消えない深い恨みである「遺恨」。深い恨みを抱えた心、状態を示す四字熟語です。
一般的に使われている「遺恨」や「恨み」を四字熟語で表現しており、相当な恨みであることがうかがえる表現です。
「意趣討ち/意趣斬り」
「仕返し」や「報復」を古い言葉で「意趣討ち」と表現し、恨みに思う相手を討ち果たすことを意味します。
“意趣を継いで討ち果たす”という浪士の言葉があるように、現代では使用する機会の少ない表現です。恨みを晴らす手段として”相手を刀で斬り殺す”と過激に表現した言葉が「意趣斬り」。
どちらも現代では演劇や古典表現以外に使われるフレーズではなく、知識として覚えておく程度で問題ありません。
「意趣返し」と同じニュアンスで使える英語表現
「意趣返し」はあまり使われる言葉ではありませんが、英語で表現しなければならない場面が出てくることも考えられます。
いざという時のために、会話やメールでの使い方を確認しておくと安心です。
revenge
pay back
action
となります。
「意趣返し」の英語表現を使用した例文はこちらです。
⇒このイタズラは意趣返しのつもりですか?
・This time the other party canceled the order as revenge.
⇒今回先方が注文を取りやめたのも意趣返しを意味するものだろう。
・My wishes came true and I am free now. I will make sure that action will be taken precisely.
⇒念願がかなってこれで自由が利きます。これまでの意趣返しはキッチリさせてもらうつもりです。
・If you look at his actions until now, I’m affraid he will take action.
⇒彼のこれまでの行いをみていると意趣返しの不安がつきまといます。
「意趣返し」は皮肉ではない!正しい意味を覚えよう
本来「意趣」は人の考えや心を表現する言葉で、「皮肉」として使われていたわけではありません。しかしながら、時代とともに言葉が変わり、現在のような悪いイメージが先行しています。みなさんも先入観で使うことのないよう言葉本来の意味を理解してくださいね。