建築士とは?
建築士とは、建物を建てるにあたって必要となる設計や工事監理をする人のことです。建築士になるには国家資格が必要で、学歴や実務経験など受験資格の条件もあります。建てることができる建物によって一級建築士、二級建築士、木造建築士に分かれており、難易度もそれぞれに違っています。
一級建築士
一級建築士は、中でも最も難易度の高い資格です。四年制大学で所定の科目を取得後2年の実務経験、または建築系の短大卒業後3~4年の実務経験、二級取得後4年の実務経験など、受験資格が必要となります。試験は、「学科の試験」と「設計製図の試験」で構成されており、学科に受からないと設計製図の試験には進めません。
難易度が高く、合格率は1割程度です。その代わり、一般の住宅はもちろんのこと、大型施設やスタジアムなど、あらゆる建物を取り扱えます。
二級建築士
二級建築士は、一級に次ぐ建築士資格であり、同様に一定の受験資格が必要です。受験資格の条件は指定科目を取得し四年制大学卒業、または建築の指定科目が学修できる高校を卒業後3年の実務経験、建築の学歴のない場合には実務経験7年となっています。試験も一級同様に学科と設計製図があり、学科に合格した者のみが設計製図に進めます。
合格率は3~4割ですが、一般的な住宅規模であれば取り扱うことができ、普通のハウスメーカーであれば二級のみの取得でも役立ちます。高さ13mまたは軒高9m以下が二級、それを超える建物は一級建築士の範囲です。
木造建築士
木造建築士はかなりマイナーな資格です。受験資格の実務経験や所定の単位取得は二級と同じなのに、その範囲は二級よりも狭くなります。そのため、木造建築士を目指すなら二級の方が良いと考える人も多いようです。
木造建築士の扱える建物の範囲は述べ面積300以下、2階建てまでの木造住宅までとなっています。
建築士の年収は低い?実態を調査
建築士は難易度高めの試験に合格しなければいけませんが、意外と年収が低いという噂も聞きます。実際のところ、建築士は稼げるのかどうか、厚生労働省などの資料を元にチェックしてみましょう。
建設業界の初任給
厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査(初任給)の概況」第3表にある性、主な産業、学歴別初任給及び対前年増減率から、建設業界の初任給をチェックしてみました。
資料によると、建設業全体で学歴による初任給の差が大きいことが分かります。受験資格から考えると、入社時に建築士資格を取得していられるのは大学院卒の人のみ。その点も学歴による初任給の差につながったかも知れません。ただし、産業全体の初任給と比較すると、大学院卒以外の学歴でも全てにおいて高めに推移しています。
大学院修士課程修了 | |||
平成30年 | 平成29年 | 増減(前年比) | 建設業全体 | 233.4 | 237.1 | -1.6 | 男 | 232.8 | 236.2 | -1.4 | 女 | 236.4 | 242.3 | -2.4 | 大学卒 |
平成30年 | 平成29年 | 増減(前年比) | 建設業全体 | 214.6 | 208.7 | 2.8 | 男 | 217.1 | 210.9 | 2.9 | 女 | 207.4 | 202.8 | 2.3 | 高専・短大卒 |
平成30年 | 平成29年 | 増減(前年比) | 建設業全体 | 190.5 | 181.7 | 4.8 | 男 | 191.4 | 183.1 | 4.5 | 女 | 186.5 | 178.5 | 4.5 | 高校卒 |
平成30年 | 平成29年 | 増減(前年比) | 建設業全体 | 172.3 | 169.7 | 1.5 | 男 | 173.3 | 171 | 1.5 | 女 | 162 | 162.1 | -0.1 |
単位は(千円)
参照:厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査(初任給)の概況」
建築士の平均年収(20代・30代・40代)
建築士の年収は、実績を重ねていくうちにアップしていく傾向です。一般社団法人日本建築士事務所協会連合会「令和元年度 業務・技術委員会レポート」では、厚生労働省資料からまとめた賃金構造基本統計調査で1級建築士の収入を年代別にまとめています。
年齢 | 給与額 | 賞与等 |
20~24 | 202.2 | 426.5 |
25~29 | 405.5 | 1839.9 |
30~34 | 438.3 | 2330.7 |
35~39 | 438.5 | 1728.7 |
40~44 | 507.7 | 2988.6 |
45~49 | 504.1 | 2341.3 |
50~54 | 557.0 | 2693.9 |
55~59 | 475.6 | 1486.2 |
60~64 | 422.5 | 1004.2 |
65~69 | 343.9 | 962.9 |
70~ | 339.2 | 761.2 |
単位は(千円)
参照:一般社団法人日本建築士事務所協会連合会「令和元年度 業務・技術委員会レポート」
受験資格により20代前半の一級取得者はいませんが、その後は20代後半、30代と徐々に上がっていき、40代でピークを迎えています。以下の他業種の同年代と比較しても高い傾向です。
35~39歳(男女) | 40~44歳(男女) | 45~49歳(男女) | |
製造業 | (男)304.9 (女)224.5 |
(男)337.4 (女)232.3 |
(男)377.4 (女)237.3 |
情報通信業 | (男)377.1 (女)306.3 |
(男)440.1 (女)341.8 |
(男)485 (女)362.2 |
運輸業・郵便業 | (男)287.4 (女)229.9 |
(男)300.9 (女)231.9 |
(男)309.3 (女)237.2 |
卸売業・小売業 | (男)330.9 (女)249.9 |
(男)366.1 (女)253.6 |
(男)412.8 (女)258 |
金融業・保険業 | (男)480.1 (女)286.6 |
(男)548.7 (女)294 |
(男)596.6 (女)315.8 |
学術研究、専門・技術サービス | (男)387.6 (女)289.7 |
(男)442.4 (女)318.9 |
(男)485.1 (女)333.8 |
宿泊業・飲食サービス業 | (男)277 (女)218.7 |
(男)300.1 (女)218.2 |
(男)315.5 (女)211.7 |
生活関連サービス業娯楽業 | (男)306.3 (女)238.5 |
(男)325.6 (女)234.3 |
(男)351.9 (女)237.3 |
教育・学習支援業 | (男)388.6 (女)296.8 |
(男)437.7 (女)334 |
(男)478.6 (女)361.7 |
医療・福祉 | (男)324.1 (女)263.2 |
(男)356.9 (女)272.2 |
(男)395.3 (女)271.9 |
単位は(千円)
データ元:厚生労働省「平成 29 年賃金構造基本統計調査の概況」
建築士の平均年収(男性・女性)
建築士は男女ともに収入は高い傾向で、女性も稼ぎやすい仕事と言えそうです。ただし、給与額に男女差があり、男性の方が企業規模に関係なく高くなっています。
10人以上(企業計) | ||
男 | 女 | 年齢 | 50.3 | 41.2 | 勤続年数 | 16.3 | 10.9 | 所定内労働時間 | 172 | 166 | 超過時間数 | 13 | 16 | 給与額 | 457.4 | 378.3 | ボーナスなど | 1910.7 | 1030.7 | 10~99人 |
男 | 女 | 年齢 | 54.7 | 41.1 | 勤続年数 | 15.5 | 11.3 | 所定内労働時間 | 174 | 169 | 超過時間数 | 7 | 14 | 給与額 | 410.6 | 375.9 | ボーナスなど | 998.7 | 548.4 | 100~999人 |
男 | 女 | 年齢 | 49.4 | 42.3 | 勤続年数 | 16.3 | 6.9 | 所定内労働時間 | 173 | 168 | 超過時間数 | 12 | 18 | 給与額 | 444.8 | 349.4 | ボーナスなど | 1843.7 | 1081.8 | 1000人~ |
男 | 女 | 年齢 | 42.6 | 40.2 | 勤続年数 | 17.6 | 14.7 | 所定内労働時間 | 167 | 157 | 超過時間数 | 25 | 19 | 給与額 | 555.5 | 419.5 | ボーナスなど | 3690.8 | 2248.1 |
給与額・ボーナスなどの単位は(千円)
参照:一般社団法人日本建築士事務所協会連合会「令和元年度 業務・技術委員会レポート」
建築士で高い年収を目指すなら
建築士になって、高い年収を目指したいなら、勤め先の規模や扱う建築物の種類に注意して就職先を決めることが大切です。稼げる企業を目指すことで、自然と年収アップが目指せるでしょう。
大手ゼネコンは年収トップクラス
建築士として稼ぎたいなら、大手ゼネコンは魅力です。仕事内容は公共建築物やオフィスビル建設など、建設に多大な費用がかかるビッグビジネスとなり、年収もトップクラスになっています。ただし、扱う建物が大きいため、活躍するためには一級建築士の資格が必要です。
大手ハウスメーカーも高め
大手ハウスメーカーは、二級建築士が高い年収を目指すのに良いフィールドと言えます。扱うのは一般的な住宅がメインとなり、一級がなくても活躍できます。また、デザイン性や技術が良ければ、社内の認定制度や顧客からの評価制度などで認められ、昇給や昇進につなげることが可能です。
中小規模の企業は安定性が低い
中小の工務店や設計事務所は、売上が景気や人気に左右されがちで、売上の不安定さが収入にも響くことがあります。ただし、人気の設計事務所に所属することで、高単価でデザインを受注できるチャンスもあります。トータルでは大手に軍配が上がりそうですが、自己の鍛錬や腕次第で道を切り開くことも期待できる選択肢です。
年収数千万も可能!独立もできる建築士
建築士はどこかに所属するだけでなく、自分ひとりで独立して事務所を持つこともできます。独立するには資金も、安定的な顧客も必要ですが、料金交渉も自分ででき、売れっ子になれば高いデザイン料を得ることも夢ではありません。仕事がなければ年収ゼロ円のリスクがある反面、年収数千万円も可能な選択肢です。
年収1000万を目指すなら転職でステップアップも
建築士で堅実に年収アップをしたいなら、転職することで少しずつ仕事の幅を広げる方法もあります。最初は小規模の建物を扱うハウスメーカーで実績を築き、一級を取得してからゼネコンへ行くことで扱う建物の幅と年収のレベルアップもできそうです。また、最初は設計事務所などに所属して技術を磨き、顧客やスキルを得てから独立するという道もあります。
建築士で年収アップを目指す時の注意
建築士は自分の技能で年収アップを目指せますが、社会の景気や企業の業績にも影響される職業です。そのため、高い年収に期待して難しい資格を取得したものの、うまく稼げないということもあります。建築士で失敗しないための注意点をチェックしておきましょう。
頑張って一級建築士を取ったのに
一級建築士はかなり難易度高めの資格です。ところが一級を取得したのに、稼げないこともあります。資格は重要ですが、資格だけがあっても稼げるとは限りません。建築士は資格を取得してから技術を磨いて魅力的な設計をしてこそ、需要が出てくるものです。
資格は必要ですが、仕事で使う最低限で用が足ります。わざわざ一級を取得せず、二級だけでもハウスメーカーに勤めて住宅の設計で技術を発揮できれば稼げるでしょう。まずは自分がどんな建築物を手掛けたいか、考えることが大切です。
地方によって差が激しい
勤務先や独立開業の場所によっては賃金に大きな差が出ることもあります。地方によって仕事内容や必要な技能が違い、それによって年収に響く可能性があるのです。一級資格を持っていてもゼネコン系の会社や仕事がなければ、無駄になることもあります。
建築家と建築士は違う
憧れの職業として、建築家を挙げて建築業界に飛び込む人もいますが、その場合も少し注意が必要です。建築家を目指して建築士を取得するのは良いスタートの方法ですが、建築士になっても「建築家」になれるとは限りません。
建築家とはアーティストのようなものであり、「建築家」の範囲は曖昧です。また、建築家と呼ばれる人はほんの一握りで、人々から認められなければならず、なろうと思ってなれるものでもありません。
建築士資格を上手に使って年収アップ
建築士は国家資格であり、取得すると年収アップも夢ではありません。ただし、難しい資格ですし、年収アップのためには資格を取るだけでなく、働き方の選択やキャリアアップを重ねていく努力も必要です。稼げる建築士を目指す人は、自分に合った働き方を選んで、焦らずに実績を積んでいきましょう。