こんにちは。私は大手Web広告代理店を3年で退職し、社員数10名以下のスタートアップ企業に転職しました。転職をする理由は人それぞれだと思いますが、私自身は学生時代、就活をする時点から転職を意識していました。実際に新卒で就職した会社を3年で辞め、転職活動を通じて運命を感じるような出会いも体験しました。
そんな私が新卒後3年間を過ごした前職のことや、転職を通じて体験したことをご紹介します。この記事が、転職を考えている方の参考になればうれしいです。
「心の底からマッチする会社」から「ファーストキャリア」を築く会社へ
私がインターン活動を始めたのは、大学2年生の夏からです。旧帝大ということもあって、学内には特に就活を頑張らなくても半年、早い人は3か月くらいでそれなりに名の通った大企業に就職が決まるという空気がありました。ですが、私自身は終身雇用を前提にした大企業での働き方にはリスクがあるのではないか、それを回避するには早い段階から動き始める必要があるのではないかと考えていました。
実際にOBの方にお話をうかがっても、大企業というムラ社会の中で、人間関係で苦労されているという話が多かったし、出世が働く目的になっているケースも多いような印象を受けました。就職して企業の中に入るのがそういうことであるのなら、自分が今後の40年間を捧げられるような、心の底からマッチしていると感じられる企業でなければ、と考えるようになったのです。
そこで早い段階からさまざまな企業の説明会や面接に参加して、自分が働きたいと思える会社を探しました。しかし、そんな会社は見つかりません。気がついたのは、実際に社会の経験もない学生の自分に、その会社が心の底からマッチしているかどうかはわかるはずがないということでした。
自分が一生勤め上げることのできる企業を探すよりも、社会人として成熟し目を養ってから自分が全力コミットできる企業を選ぶべきではないか、と思ったのです。
そこで就活を、今後転職することを前提に、「ファーストキャリアを作る」という方向で企業を探す方向にシフトしようと考えるようになりました。
ファーストキャリアを選ぶ基準
ファーストキャリアはどのような基準で選べばいいかを考えた結果、「自分の市場価値を高めることができる企業」を選ぶという結論が出ました。それに合致するのは、成長している業界、具体的にはIT系か外資系コンサルティング、そしてもうひとつ広告代理店系だろうと思いました。
広告代理店を考えたのにはほかにも理由があります。私が育ったのは歴史と伝統のある奈良県で、学生時代には伝統的な地場産業に関わる職場で働いた経験もあります。
奈良県は伝統あるお寺を始め、京都に負けないくらい、さまざな魅力的なコンテンツがある場所です。にもかかわらず、発信がうまくできておらず、旅行者にその魅力が伝えられていないのではないかという思いがずっとありました。
将来的にはなんらかの形で地元に貢献したいと考えていたので、ものの良さや地域の魅力を伝えるためのマーケティングにずっと関心を持っていたのです。
自分自身のキャリア形成という観点と地元への思い、そして今後の成長性を考え合わせると「Webマーケティング業界」が自分には一番合っているのではないか、と考えました。そこでWebマーケティングに強い企業を中心に、就職活動を始めることに。
その中で、従業員全体が若く、企業文化という面でも一番自分に合ったと思えるような広告代理店に出会いました。面接時にも「素の自分」で話せたし、空気感も合ったのです。最大のポイントは、そこが「デジタルマーケティング」に特化した会社で、今後の自分の転職価値を上げられると感じたからでした。結局、3年生の段階でその会社に内定をいただくことができました。
入社後はSNS広告戦略部に配属
2016年4月、私は大手広告代理店に入社しました。あらかじめ会社側に広告運用の仕事に興味があるという希望を伝えていたこともあって、SNS広告戦略部に配属されました。全国で自社ブランドの製品を展開している広告主を相手に、SNS広告の運用コンサルティングを行う部署です。
成長スピードが非常に早い会社だったため、新人として扱われる期間も短く、半年もすると1人前の仕事が要求されるようになりました。仕事量も多く、忙しい日々が続きます。
もちろん仕事はきつかったですが、その分、自分自身が成長できているという確かな実感があり、それがモチベーションにもなっていました。元々仕事は好きだったし、周囲には20代から30代の若い人が多いので、互いに切磋琢磨して働いていたのです。
留まることで得られるスキル vs 感じ始めた現職の限界
こうして3年目には、Web広告運用者としてのスキルはマックスになったと感じられると同時に、転職についても考えるようになります。
待遇面で特に大きな不満があったわけではありません。もちろん広告業界らしく、残業も多かったですが、その分、自分がスキル面で向上しているのは実感していました。
会社には、プレーヤーとして3年間であらゆるスキルを身につけ、4年目からはマネジメントのスキルを上げていくという方針がありました。マネジメントを経験すること自体には魅力を感じていましたし、転職の相談をした上司にも、市場価値を上げていきたいという思いがあるのなら、マネージャーのスキルはぜひ身につけておくべきだと強く勧められました。
しかし、広告代理店の限界というのも感じていました。広告代理店というと、時代の最先端を行っているイメージがあります。しかし、1人がつねに複数、多い時は10件近くの案件を抱えており、ひとつのことに集中し続けることができませんでした。
一方、広告主の企業にとって広告代理店というのは、たとえパートナーという位置づけではあっても、本質的にはアウトソーシングなんですね。そのため主体的に動けないという思いはつねにありました。もっとクリエイティブな仕事がしたい、と思うようにもなっていたのです。
もうひとつ、デジタルマーケティングというIT系業界にいると、日本のITの弱さに気づかされます。日本の遅さ、トップダウンから下ろされるスピード感の遅さを感じると、中国に絶対に勝てないと思いました。
そんな中で、日本が勝てるものは何だろうと考えると、やはり日本独自のコンテンツしかないのではないか、というところに行きついたんです。伝統であるとか、文化であるとか、そういう国際競争力とは関係のない独自のものが、今後ますます重要になってくるのではないか。そんなコンテンツを発信する側にまわりたい、という思いも強くなっていました。
働きながら転職活動を開始
転職をしようか決めかねてはいましたが、2018年の11月ぐらいにとりあえず企業を見てみようと転職サイトに登録しました。基本的にはWantedlyという転職サイトを使いましたが、リクルートやマイナビ、ビズリーチなど有名な転職サイトは一通り登録をしました。ビズリーチではエージェントさんと面談もしたのですが、ものすごい量の求人を紹介されてびっくりしました(笑)
さまざまな転職サイトを使っていく中で、Wantedlyが気軽に企業と話せるスタイルで利用できたので使いやすかったです。エージェントの方にはお世話になったんですが、反面、学生時代の就活とあまり変わらないな、という印象も受けました。
2か月ぐらいの間に、いくつかの大手企業やスタートアップと面談しました。しかし、話が進んでも、現職でマネジャーになることよりも、決定的な魅力があるとは思えなかったんです。
このまま現職に残るか転職しようか迷う日々が続き、とある企業との出会いが私を一気に突き動かしました。
プレミアムオファーが人生を変えた
私がメインで利用していたWantedlyには、プレミアムオファーという機能があります。プレミアムオファーは、企業側から「一度オフィスに遊びにきてみませんか?」とお誘いを頂ける機能です。そのプレミアムオファーが、ある伝統産業のスタートアップから届いたのです。伝統産業には興味がありましたが、正直、伝統産業のスタートアップというのがピンときませんでした。
そのスタートアップは、新規に通販事業を展開する上で、デジタルマーケティングの経験を持つ人を求めていたのです。
とりあえず話だけは聞いてみよう、という程度の気持ちでうかがった面接でしたが、そこで電気に打たれたくらいの衝撃を受けました。
伝統的な産業をもっと伝えていきたいというミッションをもって事業を展開している会社でした。面接の際に、社長から「誰よりもリスクを背負える存在がスタートアップだ」という言葉をうかがったんです。会社のミッションやビジョンに対するコミットメントの熱量が異様に高く、私もその熱意にすっかり打たれてしまいました。思わず「ここに入るのが自分の運命だと思います」と言ってしまったほどです。
これまで転職に際しては、コンテンツに関わる仕事がしたいことや日本の伝統産業のこと、自分の今後のキャリアなど、さまざまに考えていたのですが、決めるときは直感的というか、エモーショナルな部分で決めてしまいました。「このスタートアップの一員になりたい」という思いは、それくらい強いものだったのです。
その後、条件面などで計3回の面接を経て、2019年の4月に新卒で入社した会社を退職し、スタートアップ企業の一員となりました。
”好きなことを仕事に”を感じられる毎日
転職して約1年3ヶ月になりますが、一番実感しているのは「好きなことを仕事にする」のはこういうことなのか!ということです。元々仕事をするのは好きでしたが、こんなにも仕事をするのが楽しいと思える日が来るとは思っていませんでした。
正直、寝る時以外はずっと仕事のことを考えています(笑)考えることがまったく苦にならないので業務時間を終えても事業のことをずっと考えられてしまうんです。
前職と現職を比較して働くことへの意識が変わった
広告代理店で働いていた時も仕事は楽しく、充実感もありました。しかし、仕事は仕事と考えていましたし、どんなに長く働いても、自分の中ではワークとライフはきっちりと線引きされていました。
今ではテレビを見ているときも、遊びに出かけているときも、どこかで自分の事業に結び付けられないかと考えています。むしろ自分のプライベートの中に仕事があるという感じの働き方をしています。
それでも、代理店で働いていた時よりも業務時間は減りましたし土日はしっかり休めています。さらに正直なお話をすると、給料も前職に比べて下がりました。それでも私はこの仕事をしたいと思えましたし、周りにも給料が下がってでもこの事業を成し遂げていきたいと思っている方が多いです。
前職に対しては、感謝の気持ちしかありません。毎日働くのが楽しいと思える仕事ができるようになったのも、前職で3年間、デジタルマーケティングのスキルを磨き続けてきたからこそです。新卒の時に今の会社に出会っていても、おそらく雇ってもらうことはできなかったでしょう。
自分の市場価値を高めるために前職で経験を積んできて本当によかったと感じています。
ここで働きたいと思ってもらえるような会社にしていきたい
この会社でやっていきたいことはたくさんあります。
まず、デジタルマーケティングのプロとして今の会社に入社した以上、自分の任されている通販事業は絶対に黒字化させるという気持ちで毎日仕事に取り組んでいます。
2点目として、日本の伝統産業を国内外にどんどん発信していきたいと思います。日本の伝統産業が持つ質の高さを、自分たちの活動を通して、世界中に知らせていくつもりです。
3点目、私が入社した時にはほんの小さなスタートアップだったのですが、社員数も着実に増え、事業規模も拡大しています。事業をさらに加速するためにも、今後、より多くの人を採用していく予定です。
すでに私も先輩社員と呼ばれる立場になっているので、私自身が感じたように「この人たちとここで一緒に働きたい!」と思える人が増えていけるように、会社の文化作りにも関わっていきたいです。
選んだ選択肢を正しくするために行動する
私自身は前職のデジタルマーケティングでの経験の需要が高かったため、ローリスクハイリターンな転職を実現できました。ですが、仮に自分の経験が、さほど市場価値の高いものでなかったとしても、たぶん「失敗しても次あるじゃん!」と楽観的に考えていただろうなとは思っています。
転職に悩まれている方の中には、転職したいけれども自分のスキルに自信がない、ここに留まっていればリターンは低くてもリスクはゼロだから、と考えている人もいるかもしれません。ただ、ここであらためて冷静にリスクの中身を考えてほしいんです。
ゼロリスクローリターンとローリスクハイリターンがあるときに、リスクを避けてゼロリスクローリターンを取ってしまう人は多いと思います。しかし、ゼロリスクは本当にリスクがないんでしょうか?
もし、今の会社に留まっていたら、メンタルを病んでしまうかもしれません。体調を崩すかもしれません。ゼロリスクと思っていることが、実はリスクなのかもしれません。
それがもしかしたら転職をすることでその辛さから解放されるかもしれないですし、環境を変えることで年収を上げられるかもしれない。もしくは私のように年収が下がるけれど、他では得られないようなノウハウやスキルを身につけられる環境に身を置けるようになるかもしれません。
ゼロリスクではなく、ある程度のリスクを許容して、大きなリターンを取りに行くという選択肢も考えてみてほしいなと思います。
最後にお伝えしたいのは、「選ぶ前から正しい選択肢は存在しない」ということです。正しい選択肢を探し続けるよりは自分が選んだ選択肢を正しくしていくしかないと思っています。
私は学生時代、自分が心からマッチする会社を探したいと思っていました。つまり、正しい選択肢を探していたんです。でも、経験のない当時の自分には、マッチする会社かどうかもわかりませんでした。前職の広告代理店でデジタルマーケティングのスキルを身につけることで、結果的に、心からマッチする会社に巡りあえました。実際に、選んでみることで、正しい選択肢にできたのだと思っています。
私の経験が、これから転職活動をされる方の参考になれば幸いです。
取材・執筆:渡辺健太郎(けんわた)(けんわた@美容とジェンダー)
編集:chewy編集部 はら